【conciliate 柔らかな破界】
「ただいま、蒼葉さん」
「蒼葉、ただいま」
扉の音と共に響く二つの声。
すっかり慣れてしまった、いつもの生活。
今の蒼葉にはそれしかない。
ゆっくりと顔を上げる頃には、
大きな二つの影は蒼葉のいるベッドの傍へ歩み寄っている。
「今日はプレゼントがあるんですよ?」
「とっておきのね」
「……?」
やけに楽しそうに、ウイルスがトリップの持っている袋を指す。
「拘束具も必要なくなった蒼葉さんに、ご褒美です」
そういえば、最近は二人がいない間も手足は自由にされている。
けれど、もはや逃げ出そうと思うことはなかった。
──きっと捕まるし…。
それは言い訳だろうか。
もう元の関係には戻れない。
この二人の仕打ちは、決して赦せるものではない。
心では、到底。
でも、蒼葉の体は与えられる鮮烈な刺激を…。
認めたくはない。
それは、認めてしまえばこの二人から離れられなくなる…
そんな自分が怖ろしいだけだ──と、頭のどこかでは解っている。
逃げられない籠の中で、それでも生きている。
その為に必要だったのは、順応。
少なくとも、蒼葉の半分は既に陥落しているのだろう。
「蒼葉、これなーんだ?」
そんなトリップの声でふと我に返り、蒼葉がその手元に視線を移す。
ゆっくりと袋から取り出されたものは…──
「──え…?」
あまりのことに、言葉が出なかった。
だって、それは…。
見間違えるはずもない。
この部屋へ連れて来られてから、相当の時間が経っていて。
その間は見ていなくて…でも、間違えるはずがない。
あれからどうなったのか気になることもあったが。
半ば、諦めていた。
それが、今…。
「れ、ん…?」
恐る恐る、口にする。
「そう。蒼葉のオールメイト。はい、どうぞ」
トリップの大きな手が、眼を瞑ったままの小さな青い塊を、蒼葉の前へ差し出した。
「…本当、に…?」
「えぇ、本物ですよ。ワームにやられていたので除去したり、
修復用の旧型の部品を入手するのに時間が掛かってしまいましたが」
「AIもボデイもそのまんま。壊れてたところ直しただけ」
「……」
あの時、確かに蓮は動かなくなっていた。
今更ながらに、当時の状況が鮮明に脳裏に蘇る。
気づいたときにはこの部屋にいたので
それからどうなったのかは知らなかったが、まさか…。
伸ばした指先が、震える。
そうして、慎重に…そっと、触れる──
ふわふわとした感触は、記憶にあったのと変わりなく…懐かしささえ感じた。
それから、抱き上げた青色の頭を無意識に軽く揺らす。
こんなに離れていたのは初めてだが、その動作を体が覚えていたことにも驚く。
すると、とても長く感じた一瞬の後、
大きな眼がゆっくりと開き、蒼葉を捉えた。
『──…蒼葉』
「──…っ!」
耳に馴染んでいた声が…。
何も変わっていない。
そう思った瞬間、壊れたように涙が溢れて言葉が出なくなった。
『蒼葉、大丈夫か? 感情が昂ぶっている』
「……蓮…、蓮…っ!」
昂ぶらないわけがない。
もう、叶うことはないと思っていたのだから。
蒼葉は裸の胸に蓮を抱き込み、ギュッと力を込める。
その存在を確かめて、更に温かいものが頬を伝い落ちていった。
それと同時に、どこか遠くへ置き去りにしていた心が
少しだけ現実に引き戻された感じがした。
「喜んでもらえたなら良かったです」
「ちょっと妬けるけどね」
ウイルスとトリップがベッドへ腰掛け、そんな蒼葉の様子を覗き込んでいる。
「…蓮、もう大丈夫なのか…?」
『あぁ、ウイルスとトリップが直してくれた。違和感も消えて、すっかり元通りだ』
「そっか、良かった…」
動かなくなる直前までのおかしな様子もなく、本当に「元通り」といった感じだ。
そういえば今、ワームがどうとか…。
改めて、蒼葉はウイルスとトリップの方へ向き直る。
「…お前らが…? ワームって…」
「壊れる前、様子おかしかったっしょ」
何故知っていたのか…は、あのタワーの中でのことなど筒抜けだったのだろう。
改めて訊くまでもない。
「おそらくどこかで感染してたんですよ。一時期、悪質なのが出回ってましたから」
ずっと調子が悪そうだったのは、その所為だったのか。
今更この二人の言うことを鵜呑みにはできないが、
蓮の様子がおかしかったのは事実で、そうでもなければ説明がつかない。
とにかく、蓮が戻ってきた。
今はそれだけでいい。
「──…ありがとう」
赦せるものではない、けれど…。
蒼葉が口にすると、二人は同時に少しだけ目を瞠り、それから笑った。
「素直な蒼葉も可愛い」
「そんなに大事だったんですか?」
──どうしてそんなに大事か、考えたこと…あるか?
遠く遠く、ずっと昔に聞いたような言葉。
そんなものも、もうどうでもいい。
小さく頷いてから、蒼葉は腕の中の蓮を撫でた。
すると、蓮が身を捩って蒼葉を見上げる。
『…迷惑を掛けて、すまなかった』
「無事だったなら、それだけでいいんだ」
たとえ捕まっていなかったとしても、
蒼葉一人では蓮を直せたかどうかもわからない。
二人が旧型の部品も入手してくれたようなことを言っていた。
何としても直すつもりではあったが、それも、一人では難しかっただろう。
そこまでして直してくれたのだと思うと…。
赦していないと思うのに──やはり、嬉しい。
「お前ら、なんでこんなこと…」
そんな手間を掛けてまで、蒼葉のためにということだろうか。
こんなふうに自由を奪っているというのに。おかしな話だ。
「俺たちは、蒼葉さんに喜んでもらいたいだけですから」
にこやかにウイルスが答え、
「そうそう。蒼葉が喜んでくれたら、俺たちも嬉しい」
トリップもまっすぐに蒼葉の眼を射抜く。
昔から蒼葉が知っているウイルスとトリップが、そこにいる。
もう何度も狂気を見せ付けられてきたというのに…
やはり、捨てきれない思い出や感情もたくさんある。
嫌なのに、嫌いになれない。
何もかも奪われているのに、与えられる。
この関係は複雑過ぎて、蒼葉の感覚では理解の範疇を超えている。
すると、
『蒼葉、あまり考えすぎると思考回路が…』
「っ、…わかってるよ!」
蓮のそんな変わらないやりとりも懐かしくて、蒼葉はふと嬉しくなった。
語尾と同時に、自然と笑みがこぼれる。
きっとそれは、この部屋へ来てからは初めてのことで。
もうずっと忘れていた感情だったから、少しぎこちなかったかもしれないけれど。
「…ほんと、ちょっと妬けますね」
「蒼葉、俺たちには?」
と、ウイルスとトリップが蓮越しに蒼葉の顔を覗き込む。
あれだけ怖ろしくも感じていた存在が、なんだか子供みたいだ。
そう思うと、意識とともに遠ざけていた言葉が自然と溢れてきた。
「…蓮のことは感謝してるけど、お前らのこと…許したわけじゃ…」
二人を交互に睨み、蒼葉がゆったりとした声で呟く。
いくら時が経とうと、二人に受けた数々の仕打ちを忘れることはできない。
今だって、タエや旧住民区の皆がどうなっているのかも分からない。
ウイルスとトリップに訊いたところでそれが真実かどうかは不明だし、
何より、聞いてしまうのが怖かった。
その状態のまま、もう長い月日が過ぎている。
あの時、もっと蒼葉に出来ることがあったら…──後悔は尽きない。
しかし二人は全く意にも介さず、しれっと言い返して来た。
「そうは言っても、蒼葉さんは既に東江に見つかってましたからね。
俺たちが捕まえて、こうして手出しされないようにしてなければ
もっと大変な目に遭ってたかもしれませんよ?」
「全部上手くいって何でも手に入るなんて、そんな都合のいいことって滅多になくね?」
「それは…」
確かに、別の道があったとしても上手くいったかどうかは分からない。
それだったら、蒼葉が生きていて、蓮も無事だったというこの状況は
少なくとも最悪の結果ではなかった…ということなのだろうか。
どことなく腑に落ちないものも感じるのだが、その正体が蒼葉には解らなかった。
どちらにしろ、過去は変えられない。
現実は現実として受け止めなければならない。
この二人が蒼葉を手放さない限り、蒼葉は…。
「だから、蒼葉さんは俺たちのことだけ考えていてください」
「俺たちも、蒼葉のことしか考えてないから。ね?」
「そうです。俺たちの存在を刻むために、最初は恨みや憎しみでもいいですが…」
「次は心も、俺たちにちょうだい」
言いながら、ウイルスとトリップがそれぞれ蒼葉の頬に唇を寄せる。
ビクリと体が反応するのと同時に、胸の奥がざわめいた。
──心も…。
それは最後の砦だと思っていたのに。
考えたくなくて、目を逸らしていた。
すべてこの二人に委ねてしまったら…蒼葉はどうなるのか分からないから。
「まぁそれはゆっくりでいいですよ。時間はたっぷりありますからね。ねぇ、蓮さん?」
不意に、ウイルスが蒼葉の腕の中の蓮へ向かって問い掛けた。
『あぁ、蒼葉がここにいるのなら、俺もずっと一緒にいる。だから、安心していい』
小さく頷いた蓮は、大きな瞳でしっかりと蒼葉を見上げて諭す。
「蓮…」
そう、蓮はずっと一緒で、いつでも蒼葉の味方で…。
その蓮が安心していいと言うのだから、それで良いのだろうか。
なんだか、頭の奥がぼうっとする。
久しぶりに色々なことがあって、少し混乱しているのかもしれない。
「蒼葉、そろそろ俺たちにも構ってよ」
「ん…っ」
頬を舐めていたトリップが位置をずらし、唇を食む。
そのまま舌を割り入れられそうになり、蒼葉は慌てて背を反らした。
「ちょ、っと…待っ…、蓮が…」
それだけでも微かに甘い感覚が灯る。今更逃げようとは思わない。
でも、今は…。
いくらオールメイトとはいえ、こんなところを蓮には見られたくなかった。
それなのに、蓮をスリープモードにしようとした手を、ウイルスが背後からしっかりと押さえる。
「大丈夫ですよ。蒼葉さんが俺たちのものになったこと、
蓮さんにもちゃんと説明してありますから」
「え…」
「蒼葉は俺たちのオールメイトとも遊ぶの大好きだしな」
「…な、…っ、蓮は…」
身を捩る蒼葉など物ともせず、トリップが蓮の小さな体をを抱き上げて傍へ下ろす。
「仲間外れは可哀想でしょう?」
勝手なことを言い、ウイルスが後ろから蒼葉の耳朶を咬んだ。
「ふ…、ぁ…」
「そうそう、みんなで仲良くすればいいんじゃね?」
正面からはトリップが胸を撫で、喉元に舌を這わせる。
「あ…、だめ…だって…っ」
『蒼葉、俺なら気にするな。蒼葉が嫌ならすぐわかる』
「蓮…!」
冷静な声が、今は逆に蒼葉を焦らせる。と、
「じゃあ、これは全然いやじゃないってこと」
「っ、あぁ…」
都合よく解釈したトリップがニヤっと笑い、本格的に蒼葉の肌を弄り始めた。
衣服など着ていない体は、触れられた場所からすぐに火照ってくる。
「なるほど…感覚を共有してるっていうのは便利ですね。
それなら、素直に答えてくれない蒼葉さんの代わりに
蓮さんに聞きましょうか。ねぇ蓮さん、これは?」
「……っ」
甘く咬んでいたウイルスの唇が、今度はねっとりと耳の裏から内側まで舐め上げた。
『快感と捉える脳内物質が放出されているが、微量だ』
「ふーん。蒼葉はもっと、激しいのが好きなんだ?」
言って、トリップの手が蒼葉の下腹部へ落ちる。
「ぅ、あぁ…っ」
いきなり中心をギュッと掴まれて、蒼葉は体ごとビクリと跳ねた。
「それは聞かなくても解りますけどね。俺たちが、そうしたんですから」
「まぁね」
勝手な言い分だというのに、そんな些細な言葉にも鼓動が高鳴る。
本当に、蒼葉は変えられてしまった…。
そんな蒼葉を、蓮はどう捉えているのだろうか。
それとも、たとえ離れていた時期があっても、
意識を共有している蓮はすべてわかっているのだろうか…。
だからといって、兄弟のように過ごしてきた存在にこんな姿を見られるのは、
やはり──いやだ。
そう思っているはずなのに…。
「蒼葉のここ、もう濡れ始めてる」
ゆるゆると擦られていた箇所は、簡単に屹ち上がっている。
それを見せ付けるように指で押さえ、トリップが呟いた。
『蒼葉、興奮状態により心拍数が一気に上昇した』
「蓮! …頼む、から…、見るな…っ」
上気した顔で見下ろしても、当の蓮は涼しい顔でキョトンとしている。
『何故だ? 成人男性として至極当然の反応だ。恥ずかしがることはない』
「そ…う、いう問題、じゃ…」
「もしかして蒼葉さん、蓮さんに見られていつもより興奮してますか?」
ウイルスが蒼葉の頬に手を添え、潤んだ瞳を覗き込んで微笑んだ。
「恥ずかしい? 蒼葉、可愛い」
「それなら、もっとご期待にそえるようにしましょうか…っと」
そう言ってウイルスが蒼葉の腕を掴み、体勢を変えようとする。
すると、次の瞬間には言葉などなくてもトリップも脚を掴んで協力した。
「なっ…、ゃ…っ」
取らされた格好は、四つん這い、だ。
この格好自体は…不本意ながら何度も覚えがある。
だが空洞になった腹の下に、今は蓮がいる。
「蓮さん、特等席ですよ。蒼葉さんはどうですか?」
『また心拍数が上昇した。だが、栄養状態や健康状態の問題はない。正常な範囲内の変化だ』
「蒼葉のオールメイト、真面目だね」
よく分からない感想を洩らしながら、トリップは目の前に移動した蒼葉の腰に手を掛ける。
そのまま両手で双丘を左右に割り開き、狭間に顔を埋めた。
「ひ…、あぁ…っ」
熱くて弾力のある舌が、窄まった部分をつついては舐め上げる。
甘い痺れに膝がガクガクと震えるが、今倒れ込んでは蓮が下敷きになってしまう。
それだけは避けたくて、蒼葉はなんとか気力で踏みとどまった。
しかし、蓮の目の前に突き出された部分は放置されたまま触れられもせず、
決定的ではない後ろへの刺激ばかりが続いて苦しい。
放ってしまいたいのに、自分で手を伸ばそうにも腕はウイルスに押さえられている。
「ふふ…頑張ってますね、蒼葉さん」
「ぁ、…っ、はぁ…」
舌先が内部へ潜り込もうとする度、全身の力が抜ける。
けれど、それとは裏腹に屹立だけは更に硬度を増して切なく震え──
『蒼葉、ここが苦しそうだ』
「──…ッ!?」
途端、感じる刺激。
それは…。
蓮の小さな舌が、透明な液の滴る蒼葉の先端をペロペロと舐めている。
傍から見ればじゃれているようでもあり、決して卑猥な雰囲気ではないのに。
頬を舐められればくすぐったいような舌が、
最も敏感な場所を這うだけで全く別物のように襲い掛かってくる。
「蓮っ! や、…ぁ、っ」
微かな理性が止めようとしても、正直な体は快感しか認識しない。
そして、蒼葉の感じる部分を解っているとでもいうように、
蓮は腹の下の位置から裏側や窪んだ場所ばかりを丁寧に舐める。
「ふ、っ…ぅ、ぁ…」
待ち焦がれていた以上の複雑な刺激で、更に膝がガクガクと揺れた。
だが、腰を引こうとすると自らトリップに押し付けるような格好になってしまう。
「これはなかなか。そそられる光景ですね」
そんな様子を見下ろして、蒼葉の髪や額に口付けながらウイルスが耳元で囁く。
三箇所からいっぺんに刺激が集まってきて、
自分が何を感じているのかもわからなくなってくる。
「あ、あぁ、っ…、やめ…っ」
「今ギュッて締まった」
「…っ」
わざと聞こえるように呟き、トリップが今度はその場所に指で触れた。
「…、ぁ…」
唾液にまみれた媚肉は、骨張った指を容易く呑み込んで行く。
奥まで埋まったそれを勢いよく抜き挿しされても、もう痛みなど感じない。
それどころか…催促でもするかのように、内部が勝手に蠢いた。
「蒼葉の中、ビクビクいってる」
からかう口調が、僅かに残る羞恥心を煽る。
すると、
『トリップ、蒼葉はもっと奥の方が…』
「…れ、っ…ん…!」
蒼葉の腹の下にいる蓮が、見てもいないのにそんなことを言ってのける。
『快楽を感じているのは事実だ。隠す必要はない』
「そうですよ、蒼葉さんもそのくらい素直になってくれてもいいんですが」
便乗してウイルスも頷き、慈しむようにゆったりと髪から首筋を撫でる。
それから、唇が重なると同時に滑り込んだ舌が口腔内を掻き回した。
「ん…、ぅ…」
確かに蓮には、蒼葉が感じているものを隠せないのかもしれない。
だが、この状況では蒼葉一人が追い上げられているようで…。
蓮までもがウイルスとトリップに味方しているようだ。
しかし蓮は蒼葉とつながっているはずであって──
つまりそれは、蒼葉の意思でもあるということなのだろうか
…と思いかけて、振り払うように蒼葉はかぶりを振った。
そんな少しの動作でも、内側を掻き回している指の存在を強く意識してしまう。
そして、蓮が言っていた通り、もっと奥を…。
「蒼葉、これ以上は指じゃ届かないけど」
「さぁ、どうしますか? 蒼葉さん」
「……」
──言ってしまえば、何も考えられなくなっている間に終わる。
その「期待」に反応して、心臓が一際大きくドクンと跳ねる。
けれど…。
「蓮…っ、向こ…う、に…」
苦しい吐息に乗せて、なんとか蓮に声を掛ける。
せめて、見えない位置に移動させようと思ったのだが。
『すまない蒼葉…。俺ではこれ以上、蒼葉の苦しさを緩和することができない』
「な…」
振り返って蒼葉の顔を見上げながら、蓮がしゅんと耳を垂れる。
返答の内容は予想外だったが、そんな姿を見せられてしまうと怒ることもできない。
主のことを最優先に考えている行動だともいえるが、
これは…オールメイトとして通常の反応なのだろうか。
もちろん、こんな場面で起動させていたことなどないので定かではない。
それから、蓮は蒼葉の腹の下から這い出してウイルスを見上げた。
『ウイルス、もっと強く…ここを解放してやって欲しい』
「まさかオールメイトにお願いされるとは。じゃあ蓮さん、一緒にやりましょうか」
楽しそうに笑い、ウイルスが蒼葉の体を抱き起こす。
「っ、あ…」
それと同時に後ろを弄っていたトリップの指が抜け出ていった。
「それじゃ、こっちもサービスっと」
「な、に…」
手早く自らを寛げたトリップが蒼葉の腰を引き寄せ、後ろ向きにその上へと座らせる。
正面からはウイルスが、蒼葉の肩を抱くようにして支えた。
「ふ、ぅ、…あぁ…っ」
そうして位置を合わせたトリップのものがずぶずぶと埋まり、蒼葉を切り開いていく。
慣れてしまったとはいえ受け入れる衝撃は大きく、
蒼葉は思わず前のめりになってウイルスにしがみついた。
「蒼葉さん、これじゃ見えませんよ?」
頭の上でウイルスの声がしたが、構ってなどいられない。
それなのに、
「蒼葉、こっち」
後ろからトリップが蒼葉の両膝を無理やり左右に開きながら抱え上げた。
「…ッ、ひ、ぁ…」
その体勢は埋め込まれた部分に一気に体重が掛かり、内部を思い切り締め付ける。
それからトリップの胸に凭れ掛かるよう体を倒されて、脚は更に力なく宙へ浮いた。
そうすれば必然的に…
大きく開かれた両脚の間も、トリップを受け入れている部分も
ウイルスと──それから、連の眼前に晒された。
「や…、見る…な…っ」
全身から力は抜けていたけれど、かろうじて自由になる腕を何とか動かし、
蒼葉は自らの屹ち上がったものを両手で押さえて隠す。
そんな光景をジッと眼鏡越しに見下ろし、
「おや、自分でするってことですか? それはそれで楽しめますが」
蓮を膝に乗せたウイルスが意地悪そうに口端を上げて言う。
「──…っ、違…、あぁ…っ」
しかし、反論する間もなく、
「俺にも見せて」
蒼葉の肩に顎を掛けて覗き込んだトリップが
器用に持ち上げた膝を揺らして突き上げてきた。
めちゃくちゃに揺らされて、体がグラグラと倒れそうになる。
すると恥ずかしさなど考える余裕もなくなって、
蒼葉は屹立から両手を外してトリップの腕に掴まった。
しかしながら、その掴まった腕こそが蒼葉の脚を揺らしているので…。
「ん、…ぅ、あぁ、は…ぁ…助け、…っ」
体全体が揺さぶられることになり、呼吸もままならない。
生理的な涙が溢れ出し、薄く開いた視界もぼやける。
「あらら、もう降参ですか?」
「蒼葉がしてるとこ、見たかったのにね」
平然と呟きながら、トリップは尚も激しく蒼葉を揺らす。
「それはまた今度、じっくり見せてもらいましょうか」
「だな」
「っあ、…、も…ぅ…」
解放を訴えて、しかし触れることのできない箇所が
突き上げに合わせて大きく揺れる。
『ウイルス、トリップ、蒼葉は限界だ』
「ん」
「はい、それじゃ蓮さんもどうぞ」
そこで改めてウイルスが身を乗り出し、片手で蒼葉のものを掴んだ。
「はっ…、あぁっ…」
それだけで達してしまいそうになったが、その手の力は意外と強く、
塞き止められたように体の中心で欲望がわだかまる。
と、掴まれて固定された先端に、再び蓮が舌を伸ばし…。
「──あ、っ…、は…ぅ、あああぁぁっ…」
同時に力強く擦り上げられ、呆気ないほど簡単に蒼葉は白濁を放った。
長く尾を引く声と共に、内側が痙攣状態でビクビクと震え続ける。
「……っ、…と」
その蒼葉の最奥を突いてトリップも動きを止め、
途端、熱い飛沫が内部を濡らした。
そして、
「…あーあ、べっとべと」
「あとで、蒼葉さんと一緒に洗ってあげましょうね」
『あぁ、頼む』
「……?」
荒い息を吐きながら、蒼葉が薄く目を開く。
すると、ぼやけた視界に白く汚れた蓮の姿が映った。
その瞬間まで蒼葉の先端を舐めていたのだから、これは当然…。
「──…!」
羞恥心…いや、罪悪感、だろうか。
なにか大事なものを穢してしまったような。
しかし蓮はいつも通りの表情で、毛繕いをするかのように
白濁を前足で撫でては舐めて綺麗にしていた。
そんな光景を目にしたのも束の間。
「でも、その前に…まだ終わりじゃないですよ? 蒼葉さん」
「…ぁ」
「よっと」
力の抜けた蒼葉の体を、トリップが持ち上げた。
そうすれば当然、蒼葉に埋まっていたものが引き抜かれる。
内腿を濡らすものを拭う間もなく体を翻され、
「っあ、ぁ…」
まだヒクヒクと収斂を繰り返していた場所に、ウイルスが割り入ってきた。
この立て続けの衝撃にも体はすっかり慣れている。
内側まで濡れていた秘孔は、それを難なく奥まで受け入れた。
「まだ中が波打ってますね。そんなに良かったんですか?」
熱っぽい吐息が首筋を撫でる些細な刺激にも、全身がビクリとなる。
ウイルスには背を抱かれているので、今度は正面からトリップが覗き込んできた。
「涙もびっしょびしょ」
そんな言葉とともに、恍惚とした顔で蒼葉の目元に舌を這わせながら。
『蒼葉、まだ濡れている』
と、足元にいた連が再び蒼葉の脚の間へと駆け寄り、
先端から滴っていた残滓を舐め取り始めた。
「ッ、…蓮っ! だ、…め、…っ」
『不快感はないはずだが…俺の対応は間違っているだろうか?』
「な…」
達して間もない部分はまだ硬度を保っていて、いつも以上に敏感になっている。
そんな箇所を…優しくとはいえ小さな舌で何度も舐め上げられては堪らない。
しかも、探るように角度を変えて丁寧に、だ。
蓮は残っていたものを舐め取っていただけのはずだが、
いつの間にか透明な雫が新たにどんどんと溢れ出し、それも掬い上げられた。
蒼葉は思わず脚を閉じようとしたが、すぐさまトリップに押さえられる。
ウイルスを呑み込んでいる部分だけが、縋り付くかのように震え続けた。
「ん…、すごい締め付け…ですね」
「俺たちだけの時より気持ちよさそうじゃね?」
『それは、先ほど俺が起動した時を境に蒼葉の安心感が増し、
緊張感が和らいだことと関係している、という推測もできる』
「なるほどね」
「早く俺たちにも安心すればいいのに」
言って、トリップが噛み付くように唇を寄せた。
「ん…、ん」
唾液が絡まり、ウイルスの突き上げと相俟って呼吸が覚束ない。
頭の芯の方からぼうっとしてきて、意識が白く塗りつぶされていくようだ。
「…でもまぁ、もうすぐかな」
「そうだな」
二人が何かを呟いていたが、蒼葉の脳にはもはや言葉など届かなかった。
「身も心も、俺たちのものに…ね」
「ねぇ」
ただ判るのは、トリップの手が蓮の舐めている場所へ降りてきたこと。
そして、蒼葉がそれを待ち望んでいたこと。
「あ、あぁ…っ…!」
ぐったりとしている体とは別の生き物のように、
触れられた瞬間再び白い飛沫が弾ける。
「…っ、…」
背後ではウイルスが息を詰めた気配がした。
指先一つ動かす気力もなく、蒼葉はベッドへ横たわった。
そのすぐ傍へ寄り添った蓮が、ゆったりと柔らかく頬を舐める。
『蒼葉、これからはずっと一緒だ』
先ほどまでの行為が嘘のように穏やかな時間。
それから、左右にはウイルスとトリップもいて。
「もちろん、俺たちも一緒ですよ」
「そう、ずっと…ね」
そんな台詞を、蒼葉はぼんやりと聞いた。
頭全体に霞が掛かったようで、脳髄が白く溶けてしまいそうだ。
意識はあるのに、すっきりしない。
この部屋へ来てからは、ぼうっとしていることも多かったが、
それとは何かが違う。説明はできないけれども。
まるで、強制的な力に頭の中を持っていかれているような…。
『ウイルスもトリップも、俺も一緒にいる。だから、もう大丈夫だ』
「──…れ、ん…?」
落ち着いた蓮の言葉に、蒼葉は掠れた声でそれだけ呟いた。
蓮が、大丈夫だと言っている。
何か、考えなければならないことも、
言わなければならないことも、あった気がするのに。
…思考がまったく働かない。
「少し疲れましたか? 蒼葉さん、また明日」
「おやすみ、蒼葉」
「……」
それを合図に、蒼葉は眼を閉じ。
自ら、考えることを放棄して、
闇の底へと意識を沈めた。
(END)