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★CG閲覧、回想シーン、捏造考察ノート(あとがき)有★

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『逃げるか隠れるかしてください。どうか、お気をつけて』


「…ったく、何なんだよ…!」

 婆ちゃんを助けたと思ったら、今度は警察?
 暴露の力のこと、ミズキのこと…自分のことだけで手一杯なのに、これ以上どうしろってんだ。

 それから、婆ちゃんを助けた時に強制的に引き込まれたライム──あれは、やっぱり本物の東江だったんだろうか。
 奴なら確かに俺を犯罪者に仕立て上げて警察を動かすくらいできるのかもしれない。
 暴露の力を狙ってるんだって言ってた。けど、そんなこと俺は知らない。

 こんな力、欲しかったワケじゃない。
 なんでこんなことに巻き込まれなきゃならないのか。

 でも、とにかく捕まるのは御免だ。

 納得のいかないものを感じながらも、蓮の入ったカバンだけを持って俺は路地を全速力で走る。
 一緒に家を飛び出したみんなとも散り散りになって、何処へ行ったか判らない。
 みんな無事だといいけど…そのためにも、まずは自分の心配だ。

「──…っと、やば…!」

 がむしゃらに走ってたところに前方から足音が聞こえて足を止める。
 慌てて脇道に逸れようとしたけど…。

「いたぞ!」

 入り込もうとした路地の角から、警官が姿を現す。
 その声に、今来た道にも何人もの警官が集まり始めた。

 …完全に囲まれた。

「くそ…っ」

 こうなったら、強行突破しかないか?

 それにしても、相手が多すぎる。
 少しでも人数の少ないほうを狙ってなら…。

 と、俺が目を付けた方向がにわかに騒がしくなった。
 これ以上増えたら本気でヤバイ。

「…?」

 注意深く警戒しながら様子を窺うと。

 ──ドカッ…

 と立て続けに派手な音がして、数人の警官があっと言う間に地面に沈んだ。

「え…」

 その後ろから現れたのは…。

「──蒼葉さん! 早く!」

「蒼葉、こっち」

「ウイルス、トリップ…!」

 見知った顔に、ホッと胸を撫で下ろす。
 まだ油断は出来ないけど、味方が二人も増えれば心強い。
 しかも、こいつらは仮にもヤクザだ。こういった状況もある程度は慣れてるだろう。

 俺はまっすぐ二人の方へ向かう。


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「──それで、これからどうするんです? 俺たちのところに来ますか? 少しの間なら匿えますから」

「いや、気持ちは嬉しいけど、俺は…──プラチナ・ジェイルへ行こうと思ってる」

「蒼葉さん?」

「このままじゃ旧住民区がどうなるかわかんねぇし」

「そんなの、誰かがどうにかしてくれるんじゃね?」

 確かに、俺ひとりが乗り込んだところで何ができるのかは分からない。
 世界ってのは近いようで遠い感じで…誰かに任せとけばいいってのも解らなくはない。
 旧住民区で暮らしてると、どうにもならない流れみたいなものがあって、諦めることにも慣れてる。
 昔だったら、俺もそう思ってたかもしれない。でも…。

「東江の計画とか、そんなこと知ってるのは俺たちだけだし」

 知ってしまったからには出来る限りのことはしたい。
 そこで一度言葉を区切り、俺は改めてウイルスとトリップを順番に見遣る。

「それに…俺は、この力のこと…それから俺自身のことを知りたい。それを、たぶん東江は知ってるから」

「蒼葉さん自ら捕まりに行くようなものですよ?」

「それでも、決めたから」

 決意を篭めて力強く言うと、ウイルスとトリップはお互いに顔を見合わせた。
 この二人はテレパシーでも使えるんじゃないかってくらい、それだけで意思疎通をしてることがある。
 これで双子じゃないって言うんだから不思議だ。

 その間にも二人の意見はまとまっていたようで。

「それなら、俺たちもお供しますよ」

「ね」

「…え?」

 あまりに予想外の展開に、俺は間抜けな声を上げた。

 …本気か?だとしても。

「──いや、お前らを巻き込むわけにはいかねぇよ」

「お婆様の話が本当なら、旧住民区全体が危ないんでしょう? それなら俺たちも無関係ではないですし」

「東江とかメンドーだけど、縄張り荒らされんのもメンドーだしな」

 もちろん、旧住民区にいるウイルスとトリップだって関係ないとは言えないけど…。
 さっきの言い分だと自分から進んで動く気はなさそうだったのに。 
 危機感を覚えたというよりは、やっぱり俺が行くって言ったから…だろう。

「お前ら、どうしてそこまで…」

「暴れたくなったら言ってくださいって言ったでしょう?」

「俺たちも一緒に暴れんの。すげー楽しそうだから」

「…遊びじゃないんだって」

「わかってますよ」

 剣呑な目付きになった俺にウイルスがにこやかに頷き、それから声を潜めた。
 誰もいない場所とはいえ、大声で話せる内容ではないのか、俺も身を乗り出して耳を傾ける。

「それに…実は俺たち、お仕事で行ったことあるんですよ、プラチナ・ジェイル」

「え!?」

「といってもあまり表沙汰にできない用事だったので、抜け道から…ね」

「侵入ルートもばっちり。どう?」

「お役に立てると思いますよ? 俺たち」

 ──ヤクザってのは色々知ってるもんなんだな。

 まるでインチキ商法の勧誘みたいな雰囲気に圧倒されかける。
 …本気で、コイツらが普段どんな仕事をしてるのか聞くのが怖くなってきた。

 とはいえ、それは正直ありがたい。
 俺だけじゃ、まず侵入できる場所を探すことから始めなきゃならなかった。

 どうせ断ってもついてきそうな勢いだし。それなら協力してもらったほうがいいに決まってる。


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 都合のいいホテルなんて言ってたから、もっと胡散臭いもんだと思ってたのに。

 中に入ってみると、落ち着いた雰囲気の広い部屋だった。
 柔らかな明るい照明の中に、高級感のある家具が整然と並んでる。
 無機質なビルの町並みからはまた掛け離れた空間だ。

「なんかスゲェな…」

 俺は溜息をついて呆然と天井を見上げた。どうやら二階まであるらしい。

「蒼葉、風呂こっち」

「ん、サンキュ」

 ってボーっとしてたら本当に風邪引いちまう。
 みんなに水滴が掛からない玄関の隅で、蓮もぷるぷると体を振っていた。

 二人に案内される形で一階の奥へ行くと、広々とした洗面所と風呂場があった。

「さ、服を脱いでください。乾燥機もありますからすぐに乾きますよ」

「ん」

 ウイルスが手を出すとトリップがすぐに濡れた服を脱ぎ始めた。
 俺もとりあえずジャケットを脱ぐ。と、余計に寒さを感じて背中がブルっと震えた。
 中のシャツまで濡れてぴったり素肌に張り付いてるから、普通に脱ぐのも一苦労だ。

「その間にシャワーで体を温めましょう」

「えーと、順番は? 俺、最後でいいけど」

「そんなことしてたら、冷えてしまいますよ」

「一緒に入ればいいし」

「3人くらい十分入れますから」

「え、あ…、あぁ」

 ウイルスとトリップに代わる代わる畳み掛けるように言われて、俺は圧倒され気味に頷く。

 男同士だし、銭湯とか温泉みたいなもんだけど…こういうところでって、何か違くね?
 いや、広いなら一緒か?

 それに、やっぱり冷えてきてるから迷ってる場合じゃないか。

「ほら、蒼葉さんも早く」

 乾燥機に手を掛けたウイルスに急かされる。
 まとめて乾かそうとしてるなら協力しないわけにもいかない。

 別に恥ずかしいことじゃないしな。
 そう自分に言い聞かせて、俺はシャツのボタンに手を掛ける。

 …出遅れたばっかりに、二人がやたら注目してる前で脱がなきゃならない。

 そうして脱いだシャツをウイルスに手渡して、今度はベルトに。

 ……妙に視線を感じるのは、待たせてるから…だよな。

 極力気にしないように、急いでズボンと下着まで全部脱いで風呂場へ向かう。
 浴槽も洗い場も広々としてて、これなら確かに3人一緒でも入れる。


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「ちょ…入らない、って…」

「蒼葉、狭い」

「トリップ、もう少しそっち、いけるだろ」

「これ以上ムリ」

「お前ら…苦しいんだけど…! つか俺、動けねーし…」

「俺たちに任せてもらって構いませんよ? 全部、ね」

「いや、せめて一人ずつなら…──って、うわ…顔、掛けるなよっ」

「ははっ、蒼葉ビショビショ」

「ちょっと今は余裕ないんですけど、あとでキレイに拭いてあげますね」

「このままでもイイ感じだけどね」

「あ…バカ、下まで掛かっただろ…」


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 さすがに夜中に近い時間だからか、通りは閑散としてる。

「あれか…」

 そんな中で、やたらに図体のデカい二人組はかなり目立っていた。

 小さく見えるくらい遠くだけど、人ごみってわけでもないから見失うことはなさそうだ。
 せっかく見つけたんだし、声を掛けて合流しよう。

 ──と思って二人のいる方に向かって歩き始めたのに、なかなか追いつかない。

 やっぱり店もほとんど閉まってて、二人は周りには見向きもしないで歩いて行く。
 とすると、目的は買い物じゃないのか?

 でも、慣れた足取りっつか、何か目的地があって進んでるように見える。

 ……少しだけ、二人のいつもの生活を知りたいっていうのもあったかもしれない。
 走って追いかければ追いつくだろうけど、そうする気にはなれなかった。
 見失わない程度の距離を保って、後ろからついていく。

 二人だけの時に何をしてるのか、純粋に興味があったから…ってのは言い訳だろうか。
 決して尾行してるつもりはないのに、そう考えてしまったからかどうにも後ろめたい。

 でも、ここまで来てから走って声を掛けるのも今更って感じだ。
 かといって、引き返すのもなんだし…。

『…蒼葉、考えすぎだ』

「う…」

 カバンから顔だけ出した蓮に大きく溜息を吐かれて、俺は内心ギクリとする。
 後ろめたさや動揺も、蓮には筒抜けだ。

「──やっぱ、色々考えるのは性に合わねぇな。…よし」

 今からでも走ってって声を掛けよう。
 それで、何をしてるのか素直に聞けばいい。
 もし知られたくないことだったら謝って帰ってもいいんだし。

 そうして走り出そうとして改めて辺りを見ると、だいぶプラチナ・ジェイルの中心部に近付いているようだった。

「…これって…」

 オーバルタワーが、見上げるくらい近くにあった。

 これが、明日来るつもりだった場所……。

 もしかして、下調べとかしてくれてるんだろうか。
 それだったら、やっぱり俺が起きてたら一緒に行くはずだったとか。

 すっかり寝ようとしてた俺は申し訳ないような気になりながら、駆け出そうとして──躊躇う。

「アイツら…、ちょっと堂々と近付き過ぎじゃね…?」

『一応こちらは裏口のようだが、得策とは言えないな』 

 辺りに聞こえないようにコッソリ呟くと蓮が答えた。

 どう考えてもウイルスとトリップがまっすぐ向かってるのは、オーバルタワーの入口だ。
 確かに大々的なエントランスじゃなくて小さな扉があるだけだけど、銃を持った警備員もいるみたいだ。

「今、俺が出てくのは逆にマズくねぇか?」

『そうだな。彼らになにか手があるのなら邪魔になりかねない』

「まさかケンカとか吹っかけなきゃいいけど…」

 辺りを探るだけにしては近付き過ぎだ。
 強行突破でもしようとしてるんじゃないかとハラハラしながら、少し離れた物陰で二人の様子を窺う……と。

「──…え……?」

 本当に、二人は真正面から入口に向かっていった。慌てることもなく、いつもの足取りで。

 そして…──警備員が、二人に向かって頭を下げた。

 …人違いじゃないよな?
 念のため眼を擦ってよく見てみても、あんな二人組がほかにいるはずない。

 それから、当たり前のように扉が開いて、これまた当たり前のように二人はオーバルタワーの中へ入っていった。

「…どうなってんだ?」


------to be continued